音楽から映像へ

アルバム「モザイク」に収録されていた遊佐未森の自作による組曲が映像になるまで。それぞれの制作に携わったふたりのプロデューサーに聞く--。

組曲「Language of Flowers」が生まれるまで音楽プロデューサー・福岡知彦氏に聞く

まず、最初にあったのは単純に“長い曲”を作ってみようということだっだんです。そうすれば、普通の4〜5分の曲には盛り込めない、たくさんの要素や、変化、新しいタイプの世界が作れるのではないだろうかという。僕たちが若いころには、1枚のアルバムに3〜4曲しか入っていない形の、1曲1曲がとてつもなく長い作品は、たくさんありましたよね。それが最近では、商業的な意味合いも含めて、かなり少なくなってきていて。もちろん、それぞれの4〜5分くらいの曲の中ではあらゆる工夫はなされていますけれども。もうひとつは、彼女はそれまで4枚のアルバムを発表してきたわけですが、そろそろ遊びというか実験的なことに挑戦してもいい時期ではないかということでした。そして、いよいよそのモチーフという話へ進むのですが、彼女はいつも花を買っては部屋に飾り・・…・と、よくそういう話は開かされていたんです。シングル「靴跡の花」の仮タイトルは、実は「フリージア」だったほどで、彼女自身‘花’から受けるインスピレーションや、花への想いは強いようでした。組曲という形と、花をモチーフにすることで、春夏秋冬、そして朝から夜への流れを描きだすことができるというアイデアはすぐに実を結び、そういうふうに曲の骨組は、すんなりと決まってしまいました。そして、いよいよ彼女は作詩・作曲という作業に入ったわけですが一一。「すみれ[田舎の幸福]は、中華風のメロディでありながら、それは今までどこにも無かったような、それでいて遊佐未森らしい何かが漂ってくる曲になっていておもしろかったですね。“中華風”と呼んでしまうくらい、ああいうタイプの曲を作ると、どこか似かよっだものになるものなんですが…・。それから、5拍子の曲を作ってきたのには驚きました。最初聴かされたとき数えられなくて。「これは5拍子なんだよ」って教えられたくらい(笑)。彼女もリズムマシンみたいな機械をもっているのですが、その使い方を少し教えただけだったのに、次に会ったときには5拍子のリズムを打ち込んでいて「われもこう[変化]」ができていたわけなんです。ああいう曲がよく作れるなと思いますね。頭でこねくり回してないからすごく気持ちがいい。レコーディングのときにドラムは青山純という日本でも指折りのドラマーだったんですが、難しくて「チキショー!」って言いながら叩いていたくらいで。譜面におこすと、本当に複雑なリズムだってことがわかるんですが、それを彼女は、もうそのリズムが、体の中に入っているから、何ということもなく歌ったりできるわけです。すごく不思議な感じがしましだね。詩に関しても考えるというよりは想うという感じで、ごく自然な流れと言葉でつくっていました。「つゆくさ[小夜曲]」の中の「音楽のように空に浮かんで流れてゆきたい君の胸に」というフレイズが僕はとても好きなのですが、それは、「本当にそういうことできればいいな」という彼女の願いでもあって。そういった意味でも、『Language Of Flowers』には遊佐未森ならではの世界観がとてもいい形で息づいていると思いますね。さらには、コンサートでこの曲を再現したときに、彼女はとにかく「坂道」が欲しいと言っていたんです。リハーサルの段になってもその意味がよくわからずにいたのですが、実際にセットを組んで本番のステージで観たときに、遊佐未森の中には、僕が考えてた以上に、もっと大きくて豊かな『Language Of Flowers』の世界があったということを知りました。そこで、映像化できないだろうかという話になっだわけなんですが。