遊佐未森を語るための用語集

 僕ってインテリくん=ウスラバカなので、人が用意してくれた出来合いの言葉を使ってじゃないと、自分の考えを説明できないの。
 というわけで、私の能力不足の分を読者の方々にフォローしていただくのは申し訳ないのですが、未定義で意味不明な言葉についての簡単な用語解説をつけました。個人的には、遊佐未森の世界を解き明かすキーワード録になっているのかとも思いますので、どうぞお読みください(__)。

ゲマインシャフトGemeinschaft
 テンニースの概念。人々の情緒的な結びつきによって形成される共同体。自然に囲まれた農村で、家族も隣近所も仲がよく、みんなでニコニコしながら暮らしているというイメージ。利益的な結びつきによって形成される共同体、ゲゼルシャフトGesellschaftが対置される。
 テンニースは「すべての社会はゲマインシャフトからゲゼルシャフトに進化する」と考えた。しかし、よくよく考えると、ゲマインシャフトみたいに楽園のような社会がある(あるいは遠い昔にあった)なんていうことはありえないから、これはウソだったりする(^^;。だけど、なんとなくこの考え方は「そうかもしれない」と思わせてくれるわけであって、それが何故かというと、次の「楽園の喪失」へ。

楽園の喪失Paradise Lost
 いわゆる「失楽園」…といっても、ミルトンの方ではなく、その元ネタとなった旧約聖書の「エデンの園」の方。もちろん「渡辺淳一」の方でもない(^^;。
 ユング派心理学の一派では、人間が生まれてから心が発達する途中で、必ず「楽園喪失」の段階を通ると考える。これは、世界中の多くの神話に見られるストーリーから推測された。その筋道とは

  1. 「最初の人間(神)」が生まれる。
  2. その人(神)は全能で、嫌なことの何一つないところ(楽園)で暮らしている
  3. トラブルが起こる
  4. その人(神)は、楽園から追放される。もしくは全能ではなくなる。もしくは死ぬ運命を背負わされる
 というものである。
 ユング派の学者は、違う文化の神話に、このような同じストーリーが見られるのは、「すべての人間が同じ心理を共有しているからではないか」と考えた。その原因としては、誰もが生まれた時から
  1. 乳児期:泣きさえすれば、乳が与えられたり、おむつが取り替えられたりする(全能の楽園)
  2. 幼児期:我慢しなければならないことを教えられ、意に沿わないことをしなければならないことが多くなる(楽園の喪失)
 という段階を踏まなければならないからであると考えられる。
 この説に従うのであれば、誰もがニコニコと暮らせる楽園=ゲマインシャフトとは、乳児期の楽園の記憶が生んだ幻想に他ならないということになるだろう。
 ただし、どうして「神話に共通する構造がある」ことが「みんな同じ心理を共有している」ことになるのか、必然性は不明確。また、そもそも「乳児期の記憶」なんて誰も持っていないし(^^;、大人の立場から「こうじゃないか」と推測しているだけなので、ちょっと論拠が弱すぎるんじゃないの?という点もある。

フロイトFreud, S.
 19世紀末のドイツの心理学者。というより、このオッサンが心理学を作った。「すべての文化的な活動は、抑圧された性欲が形を持って吹き出したものだ」という、トンデモな主張をした。ただし、このオッサンの偉いところは、「そんなのウソやん」「いや、本当だ」というほかの研究者たちの議論を呼び起こし、それによって人の心についての学問が飛躍的に発展したところである。
 特に「えっちな未森さん」のページで「フロイトが言っとる!」と書いてあるけれども、それは基本的にウソを承知で無理やり横車を入れているだけなので、むやみにツッコミを入れないように(^^;。以下にいくつかの例を取り上げるけど、「フロイト的に解釈した!」と言いさえすれば、なんでもセックスに結びつけることができるのよ(^^;。

空飛ぶ夢Flying Dream
 フロイト派の精神分析では、起きている間は社会的な制約によって抑圧されている欲求が、眠っている間に形を変えて夢の中に現れると考える。「空飛ぶ夢」は、飛んでいる感覚=無重力感が性的絶頂の忘我と似ているために、「空飛ぶ夢を見た」=「性的絶頂を感じたい」=「性的欲求不満がある」と解釈される。

海The Sea
 三好達治は「海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に母がある」(郷愁)と書いた。このように、様々な文化で、海は母のイメージを持つ物ととして語られることが多い。海はすべての生命の源泉であると考えられることが、その一因であろう。また、海中に浮かぶことは、胎児が子宮の羊水の中にたゆたうという感覚を連想させる。
 転じて、海の成分が体液の成分に近いこと、次の項で説明する「月の満ち欠け」によって干満が生ずることから、海=性液というイメージを持つこともある。

月The Moon
 有史以来、「たまたま」女性の性的周期が月の満ち欠けの周期とほぼ一致したために、月は女性(あるいは女性の性そのもの)であると解釈されることが多かった。例えば、様々な文化で、月は女神として語られることが多い(Diana、かぐや姫)。さらに、多産の象徴、昂進する性欲(月が満ちていく)、月経を示す言葉(赤い月)として用いられることもある。

卵Egg
 生命、性の象徴であると同時に、完全、可能性という意味で使われることも多い。

木Tree
「世界樹」「セフィロトの樹」という神話上の概念もある通り、木は「世界」や「人間存在の全体」を示す言葉として使われることがある。
 また、心理検査法の一つ「バウムテスト(バウムとはドイツ語で木の意味)」では、被験者に「実をつけた木」を書いてもらう。その木は実は被験者自身を示しているとされ、枝ぶりや幹の太さ、実の生りかたなどがチェックされ、被験者の心理状態を表すとされる。
 未森さんにも木を描いた歌が多いが、そこに表れている木は、何を表しているのだろうか。それは、読者の方々ご自身で感じていただきたい。


back to さわらび研究室 TOP PAGE